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刀の名称:彫物
   

■棒樋=鎬地へ溝が掘ってあるもの

*樋の変遷*(「日本刀研究の新道」より抜粋)

 樋が掻かれ始めるのは鎌倉時代の中期です。幅広の太刀が現れ、次第に焼刃が広い、大丁子の作品が生まれて参ります。そうなると自然刀身は重量を増すので是を防ぐため樋が掻かれます。樋は俗に云う血流しでも装飾でもなくその最初の目的は専ら重量を減ずることにあったと考えられます。
というわけで、古い刀の場合樋があることだけ見ても身巾、重量が相当にあったことが考えられます。注文者の意向によって多少の差はありましょうが、原則としては、今日樋のある姿の良い細身の刀を見るのは、研減りして身幅のあった刀身が細くなったか、後世(慶長頃より)に至って形態の美観を重んじて作られたものであると思います。

 樋は
掻き流しが古い形式であり、次いで角止めが行われたと思われます。其れは前者の方が容易だからであります。古備前時代の古い作品には概して樋は掻き通しを施されていると思います。樋の掻かれることは建長時代から弘安頃までが最も顕著であったと思います。元寇頃、従来の掻き流しの樋に対して長船鍛冶の手により角止めのものが造られてきます。 次に其れが丸止めに変わっていったように思われます。
そして、時代が下るにつれて、美観のために樋が掻かれるようになりますと、重量の軽い脇差しにも多く樋の施されたり、樋に添樋が掻かれたりするようになり、さらに緻密な彫りが施されるようになります。
 
 又、
樋は研磨によって変化してゆくこともあります。
 この事は原型そのまま保存せられたる中心の中へ入り込んでいる掻き通し樋の部分を見れば良くわかります。中心に残った部分が無造作なのに比べて刀身の部分の樋は極めて洗練されているのは後世手が加えられたことを物語るものであります。樋はもと両チリのものでありますが、研減りの結果片チリとなって行くのであります。また、今日伝わる丸止め樋で原型角止めが直されてなったと想像されるものもあります。
 
 
初め、短刀に樋は施されませんが、これは重量を減ずるという必要がなかったからでありましょう。
 その代わり
素剣、腰樋、腰二本樋(護摩箸)がよく見かけられるのであります。古い時代彫刻で名高いのは豊後行平(鎌倉時代初期・元久頃)にして小締りした額内剣巻龍が多くあります。なお古備前、粟田口、一文字などに素剣、独鈷剣、腰樋などがありますが、何れも宗教的意義を持つもので後世の如く装飾ではありません。
 梵字は兼光(南北朝初期・建武頃)以来多く見られるものでありますが、総じて長船長光の出現以後太刀より短刀に数々彫物の施されてあるのを見れば、このころ起こった元寇が未曾有の国難であったため神仏の加護を乞う為写経、祈祷が盛んに行われ熱誠なる信仰が世上に漲っていた事実と相応ずるものでありましょう。
しかし、刀と同様時代が下るにつれ美術的な意味合いでの彫りが施されるようになるのであります。

棒樋の名称

片チリ樋。ちなみに刀は一法のもの。 両チリ樋 棒樋に添樋。 二筋樋。もしくは二本樋
片チリ
鎬地樋有るもので
棟の方だけ鎬地の
縁が残っているもの
両チリ
鎬地樋有るもので
棟と鎬筋両方に
縁の残っているもの
棒樋添樋
棒樋に細い
添樋が添えてある
二筋樋
樋が二本
そろっているもの
丸止め樋 角止め樋 掻き流し樋。初めから掻き流す場合と、樋のある刀を短くした為に掻き流しになる場合があります。 腰樋
丸止:
区際(マチぎわ)の
樋止まり丸いもの
角止:
区際の樋止まりが
角になっている
掻き通し:
区際で樋止まらず
中心先まで
樋のあるもの
腰樋:
元の部分にのみ
樋が入っている物

ここまでのものは、彫り物があるといわずに「樋がある」と言い表されるものであります。

その他の装飾彫
装飾彫は様々な種類があり、すべては乗せられないため、比較的よく見る代表的な彫りのみを掲載いたします。

剣巻龍(倶利伽羅) 草の剣巻龍(草の倶利伽羅) 額内剣巻龍、総宗彫。相州景総との合作での作、クリックすると少し大きな画像へ。 龍。クリックすると少し大きな画像へ。刀:初代忠吉/藤原宗長彫 護摩箸。まじないの意味を持ちます。
剣巻龍
(倶利伽羅
とも云う
草の剣巻龍 額内剣巻龍 護摩箸
(腰二本樋)
梵字 相州総宗彫 独鈷剣と蓮台 素剣(と梵字) 不動明王。クリックすると少しだけ大きな画像へ。藤原宗長彫 旗矛、刀:初代忠吉/藤原宗長彫
梵字 独鈷剣
(と蓮台)
素剣
(と梵字)
(額内)
不動明王
(と梵字)
旗矛

*彫り物*
装飾彫りは、たとえば同じ題材も彫る人によってだいぶ違った物になりますので、ここにあげた物はまさにほんの一例であります。違いがわかりやすいように、下に剣巻龍を何種かのせておきます。刀匠の自身彫りもあれば、彫刻家が彫っているものもあります。

剣巻龍(倶利伽羅) クリックすると少し大きな画像へ
初代忠吉
(元和−肥前)
彫りは藤原宗長
下原照重
(寛文ー武蔵)
自身彫り
一竿子忠綱
(元禄-摂津)
自身彫り
藤原信廣
(天文−相模)
拾助国重
(文禄−備中)
自身彫り

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